老後資金の相談をしていると、
「シミュレーションを見せてもらって安心しました」
という言葉をよく耳にします。
しかし、FPとして実務に携わる立場からは、
その“安心”こそが一番危険だと感じる場面も少なくありません。
なぜなら、
シミュレーションの見せ方ひとつで、相談者の判断を大きく誤らせてしまう
からです。
この記事では、老後資金相談の現場で
FPが「絶対にやらない」シミュレーションの見せ方
を整理します。
絶対にやらない①:平均シナリオだけを見せる
最も多いNGが、
平均リターンだけの一本道シミュレーションです。
- 年率〇%で運用
- 資産はなだらかに増え続ける
- 老後も問題なし
こうしたグラフは、見た目がとても安心感があります。
しかしFPの立場から見ると、
これは現実を大きく省略しすぎています。
市場は毎年平均通りには動きません。
下落の年もあれば、停滞が続く時期もあります。
平均シナリオだけを見せることは、
「最も都合のいい未来」だけを提示する行為です。
絶対にやらない②:「成功確率」だけで判断させる
次に危険なのが、
成功確率◯%という数字だけを強調する見せ方です。
- 成功確率80%
- 90%だから安心
- 失敗はほとんど起きない
こうした説明は、相談者に強い安心感を与えます。
しかし、FPが重視するのは確率そのものではありません。
- 失敗した20%は、どんな状態なのか
- どれくらい資産が減るのか
- 生活は続けられるのか
この説明なしに確率だけを示すのは、
リスクの本質を隠す行為です。
絶対にやらない③:最悪ケースを伏せる
「不安を煽りたくないから」
という理由で、
最悪ケースを見せない相談もあります。
しかし、FP実務ではこれは完全に逆効果です。
最悪ケースを知らずに迎える下落は、
- 想定外
- 心理的ダメージが大きい
- 行動がブレやすい
一方、事前に見ていた最悪ケースは、
- 想定内
- 冷静に受け止めやすい
- 計画を維持しやすい
不安を減らすために必要なのは、
最悪を隠すことではなく、
最悪を理解したうえでの備えです。
絶対にやらない④:1パターンだけで結論を出す
老後資金は、
前提条件が少し変わるだけで結果が大きく変わります。
それにもかかわらず、
- この条件で問題ありません
- このプランが最適です
と1つのシナリオだけで結論づけるのは危険です。
FP実務では、
- 条件を変える
- 前提を揺らす
- いくつかのケースを見る
ことが前提です。
1パターンしか見せないのは、
「設計」ではなく「押し付け」になってしまいます。
絶対にやらない⑤:相談者の感情を置き去りにする
数字として成立していても、
相談者がこう感じたら要注意です。
- 「正直、怖い」
- 「この下落は耐えられない」
- 「不安で眠れなくなりそう」
FP実務では、
メンタルが耐えられない設計は失敗と同義です。
シミュレーションは、
相談者を説得するための材料ではありません。
続けられるかどうかを確認するための道具です。
FPが大切にしている「見せ方」の考え方
FPが老後資金相談で重視しているのは、
- 当たるかどうか
- 数字がきれいかどうか
ではありません。
- 行動が変わらないか
- 不安で計画を壊さないか
- 想定外に耐えられるか
です。
そのため、シミュレーションは
「安心させるため」に使うのではなく、
現実と向き合うために使われます。
シミュレーションは「希望」を見せる道具ではない
老後資金相談において、
シミュレーションは希望を見せる道具ではありません。
むしろ、
- 不確実性
- ブレ幅
- 弱点
をあぶり出す道具です。
それを見たうえで、
- 余白を作る
- 条件を緩める
- 無理のない設計にする
このプロセスこそが、FP実務の核心です。
不安を減らす本当の見せ方
老後資金相談で
本当に不安を減らすシミュレーションとは、
- 良い未来だけを見せるものではなく
- 悪い未来も含めて説明し
- それでも大丈夫だと確認できる
ものです。
FPが「絶対にやらない」見せ方は、
相談者を一時的に安心させるだけの説明です。
FPが大切にしているのは、
長い老後を通じて、行動が安定し続けること。
そのためのシミュレーションは、
派手でも、分かりやすくもありません。
ですが、
確実に、老後資金計画を壊しにくくする。
それが、
老後資金相談でFPが守り続けている
シミュレーションの本当の使い方です。
