モンテカルロ・シミュレーション

FIREは「達成できるか」より「維持できるか」

― 早期リタイアを分けるのは利回りではなく設計力 ―

FIRE(Financial Independence, Retire Early)は、多くの人にとって魅力的な目標です。
一定の資産を築き、働くかどうかを自分で選べる状態になる。
その自由さに惹かれて、資産額の目標や必要利回りを計算した経験がある人も多いでしょう。

しかし、FIREを巡る議論には一つ大きな偏りがあります。
それは、「FIREを達成できるかどうか」ばかりが語られ、「維持できるかどうか」が軽視されがちだという点です。

本当に難しいのは、FIREに到達することではありません。
FIRE後の生活を、想定外の環境変化の中で壊さずに続けられるか
この記事では、その本質を整理します。


FIREは「ゴール」ではなく「フェーズの切り替え」

FIREという言葉は、あたかもゴールのように扱われがちです。
「◯◯万円貯まったらFIRE」「年率◯%で回せば大丈夫」
こうした考え方は、到達点として捉えています。

しかし実際には、FIREは資産形成フェーズから資産活用フェーズへの切り替えにすぎません。

  • 収入の中心が労働から資産へ移る
  • 積み上げよりも取り崩しが始まる
  • 回復を待つ余地が小さくなる

この切り替えを正しく理解しないと、FIREは一気に不安定になります。


達成を難しく見せているのは「平均値の幻想」

FIREが難しく見える理由の多くは、
「必要資産額」「4%ルール」「想定利回り」といった平均値ベースの議論にあります。

平均値は、計算をシンプルにしてくれます。
しかし同時に、重要な現実を隠します。

  • リターンは毎年均等に出ない
  • 下落は集中して起こる
  • 生活費は相場に合わせて動かない

平均値で描いたFIRE計画は、
達成できたように見えて、維持に弱いという構造を持っています。


失敗の最大要因は「初期の下振れ」

FIRE後、最も致命的になりやすいのは、
初期数年での市場下落です。

理由は単純です。

  • 収入の補填がない
  • 生活費のために取り崩しが発生する
  • 下落局面で資産を売る必要が出る

この状況では、回復があっても元に戻りません。
これが、いわゆる順序リスクです。

FIREは、この順序リスクに極端に弱い構造をしています。


「FIRE達成」は数字で決まるが、「維持」は行動で決まる

FIREに到達するかどうかは、
ある程度、数字で判断できます。

  • 資産額
  • 支出水準
  • 想定利回り

一方で、FIREを維持できるかどうかは、
数字よりも行動の柔軟性に左右されます。

  • 下落時に支出を調整できるか
  • 想定を下回ったときに慌てないか
  • 一時的に働く選択肢を持っているか

維持できるFIREとは、
「数字が合っている状態」ではなく「崩れにくい行動が取れる状態」です。


FIRE達成後の不安は「資産不足」より「想定外」から生まれる

FIRE後に不安が強くなる人の多くは、
必ずしも資産が不足しているわけではありません。

不安の正体は、

  • 想定より下がった
  • 想定より回復が遅い
  • 想定外の支出が出た

といった、想定外の連続です。

FIRE計画に「余白」がないと、
小さなズレが一気に不安を増幅させます。


維持できる戦略に共通する「余白」

FIREを維持できている人には、共通点があります。

それは、以下のような余白を持っていることです。

  • 生活費を固定しすぎていない
  • 現金や低リスク資産を一定割合持っている
  • 支出を一時的に下げられる
  • 収入ゼロ以外の選択肢がある

余白は、利回りを高めるものではありません。
しかし、行動を安定させる力を持っています。


「完全リタイア」にこだわるほど不安定になる

FIREを不安定にする最大の思い込みは、
「完全に働かない状態が理想」という考え方です。

完全リタイアにこだわると、

  • 支出の柔軟性が下がる
  • 心理的プレッシャーが増す
  • 下落時の逃げ道がなくなる

一方で、

  • 小さく働く
  • 好きな仕事を断続的にする
  • 収入ゼロを前提にしない

こうした設計にすると、
FIREは一気に維持しやすくなります。


FIREは「利回り勝負」ではない

FIREというと、
「どれだけ高い利回りを出せるか」という話になりがちです。

しかし実際には、

  • 高い利回り → 不安定
  • 少し低めの利回り → 継続しやすい

というケースは珍しくありません。

FIREは、
最大化のゲームではなく、生存のゲームです。


モンテカルロで見ると「達成率」より「破綻の形」が重要になる

FIRE計画を確率的に見ると、
「達成できるかどうか」よりも、

  • どんな条件で破綻するか
  • 破綻した場合、どれくらい深刻か

が重要になります。

成功確率が高くても、
失敗時のダメージが致命的なら、
その計画は不安定です。


「選択肢を増やす設計」を含んでいる

本来のFIREは、

  • 働かない自由
    ではなく、
  • 選べる自由

です。

  • 働く/働かない
  • 使う/使わない
  • 続ける/立て直す

この選択肢を増やす設計ができているかどうかが、
FIREを維持できるかどうかを分けます。


FIRE維持の本質は「崩れにくさ」

FIREは、達成した瞬間が最も脆い。
そこから先は、常に不確実性と向き合うフェーズです。

だからこそ、

  • 平均値に頼らない
  • 最悪ケースを事前に見る
  • 行動の余白を残す

この視点が欠かせません。

FIREは「できるかどうか」の話ではありません。
「続けられるかどうか」こそが、本当の難しさです。

そして、維持できるFIREとは、
華やかな自由ではなく、静かな安心の上に成り立つものなのです。

FIRE(早期リタイア)は多くの人にとって理想の目標ですが、その継続性をどう維持するかは、単に資産額だけではなく、収支の幅やリスクへの備えを俯瞰的に考える必要があります。数字の裏側にある不確実性を理解し、全体的な計画として設計することが、真に堅実なFIRE実現につながります。

下記ページでは、こうした長期的な資産形成の考え方や、将来の資産推移を客観的に捉えるためのシミュレーション解説も整理しています。より精度の高い計画を描きたい方は、あわせてご覧ください。