― 数字が示す“安心”が、投資判断を狂わせる瞬間 ―
資産運用や老後資金のシミュレーションを見ると、
よく目にするのが次のような表現です。
「このプランの成功確率は80%です」
一見すると、とても安心できる数字に見えます。
多くの人は、無意識のうちにこう解釈します。
- 80%なら、かなり安全
- 失敗するのは少数派
- 自分はきっと大丈夫だろう
しかし、この「成功確率80%」という数字は、
正しく理解しないと極めて危険です。
なぜなら、人はこの数字を
本来の意味とはまったく違う形で受け取ってしまうからです。
「成功確率80%」が与える誤解
まず押さえておくべきなのは、
成功確率80%とは、
10回中8回は成功する
という意味ではない
という点です。
モンテカルロ・シミュレーションにおける成功確率とは、
- ある条件下で
- ある基準を満たした
- シナリオの割合
にすぎません。
それにもかかわらず、多くの人は、
- 失敗は「例外」
- 自分は80%側に入る
と無意識に考えてしまいます。
80%は「高い確率」なのか?
冷静に数字だけを見ると、
成功確率80%は、裏を返せば
20%の確率で失敗する
という意味です。
これは、
- 5人に1人
- クラスに1人
- 家族や知人の中で必ず誰か
が失敗する水準です。
にもかかわらず、
投資の世界ではなぜかこの20%が軽視されます。
人はなぜ20%を無視してしまうのか
ここには、人間特有の思考のクセが関係しています。
① 自分は平均以上だと思ってしまう
多くの人は、無意識に
「自分は平均より少し上」
だと考えています。
運転技術、仕事の能力、投資判断
どの分野でも同じです。
そのため、
- 80%成功
- 20%失敗
と聞くと、
自分は当然80%側に入ると感じてしまいます。
② 「失敗」の中身を想像していない
もう一つの問題は、
失敗の内容を具体的に考えていないことです。
- 失敗とはいくら足りないのか
- いつ、どの段階で問題が起きるのか
- 生活にどんな影響が出るのか
これを確認せずに、
「まあ、20%だから」
と流してしまう。
これが最も危険な状態です。
成功確率が同じでも「危険度」はまったく違う
ここで重要な視点があります。
成功確率が同じ80%でも、
中身はまったく違うという点です。
- 失敗時の損失が少ない80%
- 失敗時に致命傷になる80%
この2つは、
同じ成功確率でもリスクの質が違います。
老後資金や生活費に関わる計画では、
後者は許容できません。
「成功確率80%」が人を油断させる理由
成功確率という言葉は、
人に安心感を与えます。
しかしその安心感は、
- 行動を安定させる
のではなく - 警戒心を下げる
方向に働くことが少なくありません。
結果として、
- 下振れケースを見ない
- 途中の資産減少を想定しない
- 修正プランを用意しない
という状態に陥ります。
本当に見るべきは「成功確率」ではない
老後資金や長期投資で本当に重要なのは、
- 成功するかどうか
ではなく - 失敗した場合、どうなるか
です。
見るべきポイントは次の3つです。
- 失敗した場合、資産はいくら足りないのか
- その不足は生活に致命的か
- 途中で修正できる余地はあるか
これを見ずに成功確率だけを見るのは、
地図を見ずに目的地までの到着率だけを信じる行為に近いと言えます。
モンテカルロ・シミュレーションの本当の使い方
モンテカルロ・シミュレーションは、
- 成功確率を示すため
ではなく - 失敗の形を知るため
に使うべきツールです。
- どんな順番で下落が起きるのか
- どのタイミングが一番苦しいのか
- どこで資金が尽きるのか
これを理解して初めて、
数字が「判断材料」になります。
「80%でもやらない」という選択も正しい
投資や老後設計では、
「80%成功するからやる」
ではなく、
「20%の失敗が来ても耐えられるからやる」
という判断が必要です。
もし耐えられないなら、
- 目標額を下げる
- 支出を調整する
- 運用方法を見直す
という選択肢を取るべきです。
成功確率は「入口」、判断は「中身」
- 成功確率80%は安心材料ではない
- 20%の失敗をどう扱うかが本質
- 成功率より失敗時のダメージを見る
- 数字より「耐えられるか」を基準にする
成功確率は、
考えるきっかけにすぎません。
それを信じ切ってしまった瞬間、
投資判断は最も危うくなります。
老後資金や長期投資では、
「うまくいく可能性」よりも
「うまくいかなかった場合の耐久性」を基準に考える。
それが、
数字に振り回されない投資家になるための、
最も確実な方法です。
成功確率という数字は一見わかりやすく見えますが、その裏には前提条件や市場のブレが必ず存在します。長期投資を判断するうえでは、単一の数字ではなく「幅をもった将来像」をどう捉えるかが本質です。
下記ページでは、こうした長期資産形成をより現実的に考えるための視点や、将来の資産推移を客観的に理解するためのシミュレーション解説を整理しています。
投資判断の根拠をより確かなものにしたい方は、あわせてご覧ください。
