モンテカルロ・シミュレーション

老後資産の「4%取り崩しルール」は本当に安全なのか?

――モンテカルロシミュレーションで検証する――

老後資金の話題でよく登場するのが、
「4%ルール」という考え方です。

これは、

退職時の資産額の4%を毎年取り崩しても、
資産は長期的に枯渇しにくい

というルールとして知られています。

一見すると、非常に分かりやすく、
老後資金の不安を和らげてくれる数字にも見えます。

しかしFPとして実務で老後相談に向き合っていると、
この4%ルールをそのまま信じてしまうことの危うさ
強く感じる場面が少なくありません。

本当に4%取り崩しは安全なのか。
モンテカルロシミュレーションの視点から考えてみます。


そもそも「4%ルール」とは何か

4%ルールとは、
老後資産の初期残高に対して毎年4%を取り崩す
という考え方です。

たとえば、

  • 退職時資産:5,000万円
  • 初年度の取り崩し:200万円(5,000万円×4%)

翌年以降は、
この金額をインフレ調整しながら取り崩していく、
という前提になっています。

このルールの背景には、
過去の市場データを用いた研究があります。


4%ルールが「安全そう」に見える理由

4%ルールが支持されやすい理由は明確です。

  • 数字が1つで分かりやすい
  • 計算が簡単
  • 「失敗しにくい」という安心感がある

特に、

「老後資金はいくらあればいいのか?」

という問いに対して、
即座に答えを与えてくれる点が魅力です。

しかし、
その分かりやすさこそが、
リスクを見えにくくしています。


4%ルールが前提としている条件

4%ルールは、
次のような前提条件のもとで語られます。

  • 長期的に株式市場が成長する
  • インフレは歴史的平均に近い
  • 取り崩し期間は30年程度
  • 資産配分は一定

つまり、
「平均的な歴史が続く」ことを前提にしています。

問題は、
老後が必ずしも平均通りに進むとは限らない点です。


最大の弱点は「順序リスク」

4%ルールで最も重要なのが、
順序リスク(シークエンス・オブ・リターン・リスク)です。

たとえば、

  • 退職直後に大きな下落が起きる
  • 取り崩し初期に不運が重なる

この場合、
同じ4%でも資産の減り方は急激になります。

平均的なリターンが後から来ても、
元本が減りすぎていれば回復は困難です。

4%ルールは、
この「順番の違い」を十分に説明してくれません。


モンテカルロシミュレーションで見る 4%ルール

ここで有効なのが、
モンテカルロシミュレーションです。

モンテカルロでは、

  • 年ごとのリターンをランダムに並べ替え
  • 何千通りもの将来パターンを生成

します。

その結果見えてくるのは、

  • 多くのケースでは問題ない
  • しかし一部では資産が早期に枯渇する

という分布です。

4%ルールは「平均的には成立」しても、
すべてのケースで安全とは限らないことが分かります。


「成功確率」が高くても安心できない理由

モンテカルロの結果を
成功確率◯%
で示すこともあります。

たとえば、

  • 成功確率85%
  • 失敗は15%

この数字を見ると、
「かなり安全そう」に感じるかもしれません。

しかしFP実務では、
この見方は非常に危険です。

重要なのは、

  • 失敗した15%では何が起きているのか
  • どれくらい資産が減るのか
  • 生活は維持できるのか

という中身です。


老後に重要なのは「失敗の形」

4%ルールを評価するとき、
本当に見るべきなのは、

  • 失敗するかどうか
    ではなく
  • どう失敗するか

です。

  • 取り崩し額を少し下げれば持ち直すのか
  • それとも急激に資産が尽きるのか

モンテカルロは、
この失敗の形を可視化します。


4%ルールが機能しにくいケース

FP実務では、
次のようなケースでは4%ルールを
そのまま使いません。

  • 退職時点で市場環境が不安定
  • 生活費に調整余地が少ない
  • 収入の追加手段がない
  • メンタル的に下落に弱い

このような場合、
4%は「安全ライン」ではなく
リスクラインになります。


FPは 4%を「基準」ではなく「仮置き」にする

FPが老後相談で4%を見るとき、
それは答えではありません。

  • 3%ならどうなるか
  • 5%ならどう崩れるか

といった比較を通じて、

  • 余白はどこにあるか
  • どこが脆いか

を確認します。

4%は、
議論を始めるための仮の数字にすぎません。


老後資金で本当に必要なのは「柔軟性」

4%ルールが危険になる最大の理由は、
固定的に使われやすいことです。

老後資金で重要なのは、

  • 毎年同じ額を取ること
    ではなく
  • 状況に応じて調整できること

です。

モンテカルロで厳しいケースを見ておくことで、

  • どこまで下げれば耐えられるか
  • どの程度の余白が必要か

が現実的に見えてきます。


4%ルールは「安全神話」ではない

4%取り崩しルールは、
老後資金を考えるうえで
有用な出発点ではあります。

しかし、

  • それを絶対視する
  • 条件を考えずに当てはめる

と、老後資金計画は不安定になります。

モンテカルロシミュレーションが示すのは、

4%は「安全な答え」ではなく、
リスクを考えるための問いだという事実です。

老後資金で本当に大切なのは、

  • 当てにいくこと
    ではなく
  • 当たらなくても壊れないこと

4%ルールは、
その前提を忘れた瞬間に、
危険な数字へと変わります。

「4%ルール」は長期の引き出し計画を考えるうえでひとつの基準になりますが、その有効性を判断するには、未来の不確実性を幅で捉える視点が欠かせません。単一の指標だけでなく、さまざまなシナリオを考慮した全体設計が、より堅実な老後資金計画につながります。

下記ページでは、こうした長期的な資産形成の考え方や、将来の資産推移を客観的に把握するためのシミュレーション解説も整理しています。より精度の高い計画を描きたい方は、あわせてご覧ください。