資産運用や老後資金の話題で、よく登場するのが「シミュレーション結果」です。
将来の資産額、成功確率、最悪ケース――さまざまな数字が提示されます。
一方で、こうした声も少なくありません。
- 「どうせ将来なんて当たらない」
- 「シミュレーション通りになった試しがない」
- 「結局は机上の空論では?」
確かに、シミュレーション結果はそのまま現実を言い当てるものではありません。
それにもかかわらず、なぜ専門家や実務の現場では、今もシミュレーションが使われ続けているのでしょうか。
その理由は、投資シミュレーションの本当の役割を誤解している人が多いからです。
シミュレーションは「未来を当てる道具」ではない
まず大前提として押さえておきたいのは、
シミュレーションは予言ではないという点です。
将来の市場は、
- 景気
- 金融政策
- 地政学リスク
- 投資家心理
など、無数の要因が絡み合って動きます。
これを正確に当てることは、誰にもできません。
したがって、
「シミュレーションは当たらないから意味がない」
という批判は、ある意味では正しいのです。
ただし、それは目的を取り違えていると言えます。
本当の目的は「当てること」ではなく「ズレを想定すること」
シミュレーションの価値は、
「この通りになるかどうか」
ではありません。
本当の価値は、
- どれくらいズレる可能性があるのか
- どの程度の幅で結果が散らばるのか
- 想定より悪い場合、何が起きるのか
を事前に見ることにあります。
つまり、
不確実性を見える形にする道具
それがシミュレーションです。
平均値だけでは見えない「現実の分布」
多くの人は、将来を考えるときに、
- 平均リターン
- 想定利回り
といった「代表値」だけを見がちです。
しかし現実には、
- 平均通りに進むケース
- 大きく上振れするケース
- 想定より厳しいケース
が混在します。
投資シミュレーションは、この結果の分布を可視化します。
重要なのは、
「平均はどこか」
ではなく
「どこまで悪くなり得るか」
です。
「当たらない」のに使う最大の理由はメンタル設計
シミュレーションが最も力を発揮するのは、
メンタルの設計です。
平均だけを前提にした計画では、
- 想定より悪い結果が出た瞬間
- 「こんなはずではなかった」と感じる
その結果、
- 投資をやめる
- 計画を大きく変更する
- 不利なタイミングで動いてしまう
といった行動につながりやすくなります。
一方で、シミュレーションによって
- 厳しいケースも事前に見ている
- 想定外ではなく「想定内」になっている
と、心理的な耐性が大きく変わります。
投資シミュレーションは「行動を安定させる装置」
投資や老後資金で失敗する最大の原因は、
数字の誤差ではなく、行動のブレです。
シミュレーションは、
- 将来を当てるため
ではなく - 行動を安定させるため
に使われます。
結果がブレることを前提にしているからこそ、
- 下振れしても慌てない
- 想定通りに進まなくても続けられる
という状態を作ることができます。
「最悪ケース」を知ることで初めて意味を持つ
シミュレーション結果の中で、
特に重要なのは最悪ケースです。
- どの程度まで資産が減る可能性があるのか
- その状態が何年続き得るのか
- 生活は維持できるのか
これを見ずに、
「成功確率◯%」
だけを信じてしまうと、
現実とのギャップが大きくなります。
シミュレーションは、
最悪ケースに耐えられるかどうかを確認するため
に使ってこそ意味があります。
当たらないからこそ「余白」が必要だと分かる
資産運用におけるシミュレーションを見ていると、
必ず感じることがあります。
それは、
「ギリギリの計画は危ない」
という事実です。
将来が当たらない以上、
- 取り崩し額
- 支出水準
- 運用前提
には余白が必要になります。
シミュレーションは、
その余白がどれくらい必要かを
感覚ではなく構造として理解させてくれます。
シミュレーションは「答え」ではなく「問い」
最後に強調したいのは、
投資のシミュレーションは答えを出すものではないという点です。
正しい使い方は、
- この計画はどこが弱いのか
- どの状況で崩れやすいのか
- 行動を変えずに耐えられるか
といった問いを投げかけることです。
その問いに向き合うことで、
- 計画を修正し
- 余白を持たせ
- メンタルを整える
ことができる。
それこそが、
「当たらないのに、シミュレーションを使う理由」です。
不確実な未来と付き合うために
未来は誰にも当てられません。
だからこそ必要なのは、
- 当てにいくこと
ではなく - 当たらなくても壊れないこと
です。
シミュレーションは、
未来を言い当てる道具ではありません。
不確実な未来と冷静に付き合うための道具です。
その役割を理解したとき、
「当たらない」という欠点は、
むしろ最大の価値に変わります。
シミュレーションは未来を「正確に予測」するものではありませんが、不確実性を理解し、計画全体のリスクや幅を可視化するための重要なツールです。数字そのものに惑わされるのではなく、シミュレーションを活かして資産形成を俯瞰する視点を持つことが、本質的な判断につながります。
下記ページでは、こうした長期的な資産形成の考え方や、将来の資産推移を客観的に捉えるためのシミュレーション解説も整理しています。より確度の高い計画を描きたい方は、あわせてご覧ください。
